金沢市では、女性活躍推進公開講演会「成長戦略としての女性活躍推進セミナー」をオンライン開催しました。
日時 | ライブ配信 2020年11月30日(月)15:00~17:00 録画配信 2020年12月7日(月)~2020年12月20日(日) |
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会場 | オンライン開催 |
参加者 | 延べ396名 |
講師 株式会社ハー・ストーリィ 代表取締役 日野佳恵子さん
パネリスト
加賀建設株式会社/土木部課長代理 森高 靖子さん
株式会社北日本ジオグラフィ/代表取締役社長 磯野 秀和さん
三谷産業株式会社/人事本部人材開発部長 平田 奈津子さん
コーディネーター
NPO法人ワークライフバランス北陸
運営委託:NPO法人ワークライフバランス北陸
基調講演では、日野先生から女性視点と新しい売り方を取り入れて成功した企業の紹介、企業が取り組むこれからの成長戦略の5つの視点について、データを交えてお話していただきました。
女性視点の消費行動に着目した「女性視点マーケティング」を企業に提供している。また、女性消費者の生活に密着した視点と行動が社会にもたらす影響について研究に取り組んでいる。女性視点マーケティング月刊レポート「HERSTORY REVIEW」発行人。
株式会社ハー・ストーリィ ホームページ https://herstory.co.jp/
女性視点を生かして近年話題の会社に、全国で作業着を中心に販売している株式会社ワークマンがあります。私自身が、最近、出版のために直接取材をさせていただく機会を持ちました。そのときにお聞きしたお話をします。あるとき販売データにいつもと違う人、いつもと違う時間にモノが動いているという異常値を見つけ、分析したところ、30代前後のママたちが、「妊娠中や育児中の女性が小さな子をかかえて絶対に滑りたくない」という思いから、絶対に滑らないレベルの靴は専門の靴であると気づき、厨房で料理人が履く「ワークマンのファイングリップシューズ」を購入していることをつきとめます。
そして、彼女たちは、「私たちワークマンが好きな女子」という意味の「#ワークマン女子」という共通ワードを独自に付け、インスタやツイッターでどんどんバズっていき、ワークマンに女性たちが殺到していきました。
ワークマンは消費者に教えられ、もともとある専門の物を女性向けに商品開発に取り組みます。しかし、これまで男性物を中心にしていたため、女性たちが言っている価値や見せ方、色味、形などわからないことがあるので女性社員を急遽増員。また、インスタグラマーをワークマン側自らがスカウトし、商品企画のためのパートナー契約を結びます。
そして、今年10月「#ワークマン女子」という女性たちが付けた名前の店舗を横浜にテスト的にオープン。大変な人気で、ついに「#ワークマン女子」を来年400店舗出すと発表することになりました。
この事例の2つのポイントは、まず昔からしていた商売が目線を変えるとマーケットが大きく変化する可能性があるということ。次に、売り方も変わっているということ。現代の人たちに合わせて、これからの売り方を研究していく必要があることを教えてくれます。
月横浜でテスト的にオープンした「#ワークマン女子」 写真は弊社「HERSTORYREVIEW」2020年12月号より
人口減の社会へ。今までのビジネスの成功モデルがもう使えないと自覚する必要がある。
マーケットの縮小について、今一度確認します。明治維新から右に急カーブで2004年辺りまで人口は急拡大します。この間に創業した会社は翌年人が増えることを信じ、できるだけ大量に、できるだけ多くの人に買ってもらうことが勝ち組、それが成長戦略と信じてきました。ところが2004年をピークに人口は右に下がり始めます。
30年後は、黄色のふきだしの点に来ます。明らかに消費者がいません。人口が減っています。さらに、ここでは右肩下がりのビジネスの成功者や体験者がいません。今の私たちにすべきことは、”今までの体験や成功モデルがもう使えないと自覚すること”です。そして、“人口減時代のビジネスモデルを探す必要とトライ”が必要なのです。
さらに、出生数の減少が加速しており、放置すれば5~10年後には出生数が50万人となることが夢でも驚きでもなく、現実を帯びてきています。一方で、日本は医療と健康のレベルが世界一高いということから大変高齢者が多くなる社会になっています。加えて、2020年時点で34%が単身世帯であり、増加傾向。一生独身者(50歳の段階で1度も結婚しなかった男性・女性)も右肩上がりです。今は女性活躍というより、「全員働く」ということがテーマとして大きくなっています。
出産がどんどん減っている。
これは、“女性たちが働きやすい環境が用意されていないことをあらわす”答えです。このままでは日本の活性化は望めません。それを解決するには、女性のライフスタイルを理解し、ともに未来の子どもが健やかに育つ国作りといったことに手を取り合っていかなければならない。これが「全員働く」ということです。
女性の就業率は70%の就業率を超えましたが、非正規、派遣、パートタイマーが多いのが日本の特徴です。これは、働きにくい、そうしないと子育てができない、子育てが女性に偏っているという現実があるからです。
ヨーロッパやアメリカまたは中国では、ほとんど子育ては外部化、ベビーシッターがいたり、または近所のシニアの方にお任せしたり、食事は外食が中心で家の中で作らないというところも多いという現実があります。
日本は、奥様が家庭で料理を作り、フルタイムで働き、子どもの送り迎えをする、ということを望んでいる現実があるために、一番の人口減少の加速化に影響しているということも言われています。
日本のジェンダーギャップ指数ランキングは毎年下がっている。政治の分野は特に低い。
その答えが、世界各国の男女のギャップについての指標、ジェンダーギャップ指数に表れています。右側指標の青色の三角が日本です。きれいな三角になっており、下の政治のところはほぼゼロ。外側の赤色のひし形は1位のアイスランドです。日本は見てわかるように教育と健康は世界トップクラスにも関わらず、経済と政治の中に女性の決裁をする責任者クラスの人間が少ないという国です。125位という先進国中最下位組です。もっとつらいのは、毎年ランキングが下がっていることです。
いかに女性が活躍できない、その労働力を無駄にしている国かということが分かります。そして、とても残念な現実として、日本の夫の家事育児時間は先進国の中で世界最下位である一方、妻の家事育児時間は世界第1位。男性の育児についても考え直す時期にきています。
これについても「男性が休むと仕事はどうするんだ」「男性が出勤をしなかったとき誰が代わりをするんだ」「いいかげんにしろ」と思われるかもしれませんが、グローバルから見るとそれを超えて、生産性を上げている成功事例は100国以上あります。この世界の成功事例の研究をせずに国内の中だけで男だ女だという会話の引っ張り合いをしていたら、ちょっと情けない状態が起こっているかもしれません。
また、世界から見ると、女性管理職が多いまたは増加している会社ほど、業績が向上しているというデータが多数あります。また、こうしたところに支援やお金が集まりやすく、優秀な男子、女性、学生が世界からも来るということがわかっています。
「全員が働く」に応える企業にもたらす複数の価値
そして、大学生にはホワイト企業といって女性の活躍がみられる会社への就職をしましょうといったアナウンスが男子に向けてもされています。
これからのキーワードは“誰もが活躍する企業“であり、女性が活躍するではなく、多様な人々の能力を活用する柔軟な組織とはどうあるべきかが大事で、そのためにはいろんな人の視点、意見、または成功事例を参考にする必要があります。シングルファザーや介護をしている単身の男性も今は増えていますので、女性活躍の目線を取り入れることは、高齢者、若者、妊婦などそういったさまざまな環境の方々にとっても優しい職場になり、メリットが多数あります。
成功していると思うところの情報は、異業種であってもぜひとも入手していくようにしてください。
日本の女性活躍を阻んでしまう課題として、男性中心に物事を決めてしまい、偏重があったということがあると思います。戦前戦後の国策に「産めよ増やせよ」という言葉があり、小さな国ながら高度成長期を成功させてきました。素晴らしい戦略でしたが、縮小の時代を迎えたとき、それによって企業体質にソフトな視点または弱者の視点が欠けていく、排除されていくという風土が残りました。
それが育児とキャリアアップを両立させる環境の不備につながっていきます。また、女性自身にも問題が多数あります。女性には、「みんなで社会を変えるには」「会社を面白くするには」「次世代につなぐには」自分たちも動かなければならないということを意識しましょう。
ロールモデルがいないのならば、今日のようなセミナーなどで他社との横連携ネットワークをつくり、多種多様な人たちとの力をあわせてコミュニケーションをすることで悩みを解決しながら進んでください。
女性活躍が進む企業とは
経営者の方には、女性を管理職にする・しないではなく、まずはたくさんのチャンスを与え、色々な働き方の中で仕事の面白さを増やし、できるだけ早く複数の人数に役職を与えていくという環境をお願いします。
パートだからとか派遣だからとか、そういうくくりは無しです。女性たちはライフイベントが複雑なので、その働き方を選択することは子育てとの両立ができるからです。つまり、いつどこで化けていくかわからないということです。どんな状況の女性にも勉強の機会、仕事のおもしろさ、チャレンジの機会を提供してください。彼女たちはある日蝶になっていきます。
女性は、無意識に家族、子ども、身近な人に消費を使うということがわかっています。ゴールドマンサックスの情報では、女性は収入の8割を家族や子供などの身近な対象のため、塾などの教育の機会やヘルスケアを与えたいと思っています。この思いの消費は男性の倍の数字であり、労働生産そのもの以上に将来の子供たちの成長発育、これらの投資においても女性たちの目線、彼女たちの積極的な行動消費は未来を支えていくということが試算されています。
つまり女性は、(世帯消費の)8割以上を握る消費リーダーで、社会の暮らしと生活の把握をしています。女性の目線は高齢者、子ども、地域に向いているので、彼女たちの目を商品に取り入れることで、幅広く大勢の人々に使ってもらえるという可能性になります。
男女の脳の特徴について、男性は会話をしているときに事実を把握する左脳がよく働き、女性は感情の右脳と事実の左脳が同時に働くことが分かる研究結果があります。その例として、雑誌の表紙を見るとわかります。男性雑誌の表紙は目的が明確です。特集が「上質な服特集」「スニーカー特集」「愛用品特集」など、表紙をみるだけで中身が分かります。一方で、女性雑誌の表紙を見ると、何の特集なのかわかりません。人にフォーカスされていて、「トレンド上手より季節上手なママになりたい」「愛ある辛口アドバイス」「ネイビーカーキがあればいい」「姉たちのことば」これらみんな、モノにフォーカスせず、この時期私たちはこんな幸せがほしいと人の暮らしにフォーカスしています。
男女違う視点というのは、互いにとても重要で、偏った製品を作っていた場合、その異質の視点を混ぜると新しい世界が生まれる可能性があります。
デジタル世代が活躍する会社は柔軟さが重要
時代の中で働き方、長寿、婚姻、出産の自由など私たちは大きく環境が変わってきました。そして人生の選択肢も多くなりました。
画像の上の数字が生まれた年、青色のところがほぼ昭和です。そしてブルーとオレンジ色、この分岐のところが、一般的にゆとり世代といわれるところです。下の矢印は教育の違いです。1988年位より前の教育は「戦後詰込み寝ずに頑張る」。 1988年くらいから後は、「生活を大切にしましょう」という教育のスタートです。これによって時間に対する考え方が変わります。人生が幸せになる暮らし方を考えていく会社に人が集まり、商品が売れるのです。そして、それが成功の事業にもなっていきます。
さらに右側では更に新しい世代がやってきます。デジタルがあることがリアルであるミレニアル世代(1980年~1995年生まれ)、Z世代(1995年以降)がやってきています。この二つの世代は、ネットはリアルです。ネットがあることは普通のことであり、どこからでも世界にアクセスできると考えるこの世代は、実は金沢のような歴史があり、日本の風景・自然があって、魚介類がおいしくて、そんな場所に集まる可能性が高いのです。リアルがネットだからこそ、日本や生きている感触を感じたく、古きものが素敵で、自然に触れることが幸せと感じるのです。
SDGsの視点も大切です。新型コロナ拡大によって若者の意識は変化しています。20代の子のインタビューの言葉です。「1年に2回リサイクル店にもっていく。捨てるよりいいかと。ペットボトルは2年ほど買っていない。ゴミが増えるし。包装ごみを減らすと案内があったお店で買い物して、良い事してると思った。」
また、ハーバードビジネスレビューでは、女性は男性に比べて、社会的責任性の強い企業の商品やサービスを購入する傾向があると報告しています。是非これからの未来、女性社員の皆様が活躍していただき、みなさまが共に社会に支持され、グローバルに支持され、企業発展成功していただきたいと思います。
第2部では、金沢市内で積極的に女性活躍に取り組まれている3社のお話を伺いました。
加賀建設株式会社/土木部課長代理 森高 靖子さん
株式会社北日本ジオグラフィ/代表取締役社長 磯野 秀和さん
三谷産業株式会社/人事本部人材開発部長 平田 奈津子さん
NPO法人ワークライフバランス北陸
(森高さん)女性採用の強化を図るため、専用サイトの作成や採用プロセスでのジェンダーバイアスの排除などで全従業員の4割を女性にすることを実現した。また、男女区別なく働きやすい職場作りのために、デジタル化推進、男女ローテーション清掃、育児支援体制、公正公平な評価を行うためにAIの導入、問題提起・解決セミナーなどを行っている。
(平田さん)新たにワークライフバランス推進課を設置し、女性のためといった限定をせず、男性を含めた全体の働き方改革の一環として組織的に取り組みを進めている。これまであった時短制度をより使いやすく改良し、時差出勤、テレワークを充実させ、育児だけでなく、病気治療や介護など男性にも使いやすい制度として定着させてきた。また、管理職の女性社員への思い込みの是正を目的に管理職向けの女性マネージャー育成研修を行い、女性社員には育休復帰時にキャリアアドバイザーによるキャリア面談支援を行っている。
三谷産業株式会社の多様な取組み
(磯野さん)長年パート社員として働いてきた女性が、育児がひと段落したため、正社員になりたいとの意向を示し、自ら勉強して測量士補の資格を取得。正社員として採用した。さらに採用から1年後には、上位資格の測量士を取得し、当社初の女性技術者となり、今も働いてくれている。
女性が徐々に増えてきたことから、制度の見直し、社内環境整備、外部研修を積極的に取り組んだところ、育児や女性だけでなく、介護をしている社員にも好評であった。また、毎年社長との個人面談も行い、ひとりひとりの働き方に寄り添い、個性を伸ばすことに力をいれている。
非正規、正規とか、女性だからとかいう考えはもたないようにしている。女性でも男性でもいろんな人、考え方がある。その人の個性を生かすということを念頭においている。
(磯野さん)最初は女性だからという見方をすることがあった。例えば、女性には現場仕事をなるべく避けるなど。しかし、本人から「現場に出たい」という思いを聞き、配置替えをして現場に優先的に行けるようにしたところ、本人の意欲をさらに引き出すことができた。思い込みに気付くことが最初は難しかった。
株式会社北日本ジオグラフィでは女性のライフイベントに合わせた配置転換を行った
(平田さん)男性自身の思い込みや女性社員の「ここまでは無理なんじゃないか」といった思い込みがある。ここをもう少し変えていくには、人事だけ変えるのではなく、組織としてどうお互いの考えをすり合わせていくか、どうチャンスを提供するかということに苦心した。
半年に1度、上司と部下が将来について1時間程度話し合う面談を取り入れ、どのようにキャリアを積み上げるか話し合うようにした。男女ともに活躍できる土壌づくりに役立ったのではないかと思う。
(森高さん)女性に限る事ではないが、若い社員が離職しないための教育や体制を整えていくことが苦労した。私が入社したころは、「先輩の背中を見て覚えろ」「技術は盗め」といった職人気質が多かったが、今の若い子では通用しない。
3か月に1回、AI評価制度を利用した上司との面談を行っている。これまでは、現場で従事する社員は直行直帰が多かったが、この評価制度を利用したことでコミュニケーションをとる回数が増えるきっかけとなっている。
加賀建設株式会社ではAIを活用した公正な評価とコミュニケーション機会の創出を図っている
(磯野さん)社員とパート社員を含めた部署を超えたランチ会を年1回開いている。女性同士の交流が生まれ、女性同士の悩み相談ができる機会になったと好評である。その中で色々な要望も聞けるため、働きやすい職場づくりのヒントを得られるものとなっている。
(森高さん)弊社は、テレワークをまだ取り入れていないが、将来的には取り入れたいと思っている。育休や産休中も仕事ができるようになれば職場復帰もしやすくなるし、これから男女関わらず育児・介護のために利用したい社員も出てくると予想されるので、対応していきたい。
(平田さん)全体的にキャリア形成についての意識を持てるように環境整備をしていきたい。男性も女性も、入社したばかりの若い層、50~60代、70歳の嘱託雇用社員も含め全員が、自身の仕事のやりがいや意欲の源泉といったものを可視化し、それを更新していけるような仕組みをまだまだ足りていないので取り組んでみたい。
(磯野さん)森高さんと同意見。若い人の採用を積極的に行ってきたことで若い社員が増えてきた。女性も多く、結婚・出産・育児といったものが今後予想されるため、そういったライフイベントがあってもこの会社で働き続けたいと思ってもらえるような制度など、取組みを加速させていきたいと思っている。