鈴森由佳/1987年生まれ 石川県白山市(旧松任市)出身/株式会社 金澤ブルワリー 代表取締役
2015年夏、金沢にクラフトビールを製造する会社、(株)金澤ブルワリーが誕生しました。起業を決意し、工場を立ち上げたのは鈴森由佳さん。なぜ自分でビールをつくりたいという気持ちに至り、どのようにしてそれを可能にしてきたのか、また現在取り組んでいることなど、お話を伺ってきました。
キャリアと語れるものなんて何もないです。高校を卒業したあとは、進学も就職もせず、フリーターとして、のほほんとバイト生活です。
成人式を迎えたころ、周囲の言葉もあり、「事務職で正社員になろうか」とハローワークに行きました。初めての就職活動です。でも、パソコンもろくに使えない、学校に行っていたわけでもない、そんな私を雇用してくれる会社などなかなか見つからず。そんな中、ハローワークを通して正社員として雇ってくれたのが金沢石油(株)です。
トータルで4年間お世話になりました。車が好きなわけではなかったけれど、事務や自動車整備、オイル交換、タイヤ交換など、やってみたら案外楽しかったです。
その正社員時代に、初めて海外に行く機会を得ました。旅行会社で働いていた友人から「一緒に旅行しよう」と誘われて、24歳で初めてパスポートを取得。プランはすべて友達まかせで、向かった先はパラオ共和国です。初めて知る異文化。初めての国際交流。ここで初めて海外の楽しさに目覚めました。
はい!帰国後も国際交流をしたくなり、仕事をしながらホームステイの受け入れを始めました。実家暮らしだったので、両親や兄にも協力してもらいながら(笑)。長いときで2週間、全部で7名の留学生を受け入れましたよ。その流れで国際交流イベントに参加するようになり、次第に自分も海外で生活したいと思うようになりました。
ワーキングホリデーを利用してカナダへ行きました。当初は1年滞在のつもりだったのですが、あちらの生活が肌に合い、ビザを延長して計2年間カナダで過ごしました。
最初の1年はカフェで働き、2年目は仕事をしながら翻訳通訳の学校にも通いました。ボランティアや国内旅行、メキシコ旅行もできて、とても充実した2年間でした。
たくさんの経験ができたカナダでの2年間
私が帰国したのは2014年の秋で、2015年3月の新幹線開業に向けて、金沢が盛り上がってきたころです。せっかく仕事するなら、「盛り上がりを肌で感じられて、英語も活かせそうな場所で」と、金沢駅観光案内所で働き始めました。
恥ずかしい話なのですが、金沢で生まれ育ったのに、それまで茶屋街の存在も武家屋敷の存在も知らなかったのです。ガイドの仕事を通して、地元にすばらしい文化や伝統があることに初めて気づかされ、なにか金沢に関わることをやりたいと強く思うようになりました。
そんなある日、前職の金沢石油(株)の上司より「某セミナーで話をするので聞きにきてほしい」と声をかけていただき、会場に出かけました。そこでたまたま出会ったのが現在の出資者です。
実はカナダに行くまで、ビールはさほど好きではなかったんです。お酒を飲むことは好きでしたが、ビールは苦いだけに感じていました。
カナダではお酒のイベントが頻繁におこなわれて、そこで初めてクラフトビールなるものを飲みました。そして驚いたんです。「こんなビールがあるの?」と。
帰国当時、金沢でクラフトビールの製造をしているところはありませんでした。「金沢にないならば、私が作りたい」とビールづくりへの気持ちが固まり、出資者のサポートのもと、クラフトビール製造に向けて走り出したのです。
ビールの製造をするには、まずは免許が必要です。観光案内所のガイドをしながら、休日を利用して何度も東京へ行き、醸造技術を学びました。免許取得のための勉強と、工場設備の準備作業、法人設立のための手続き関連はすべて同時並行で進めました。
2015年7月に(株)金澤ブルワリーを法人化し、2016年1月に念願の免許を取得。2016年3月に初めて自分の工場でビールを製造し、同じ年の6月に初めて世に出すことができました。
イベントやお祭りなどに出店することで、少しずつ金澤ブルワリーの名前を覚えてもらえるようになりました。製造業はお客さまと接する機会が少ないため、たくさんの方と直接お話ができるイベント行事にはできるだけ参加するようにしています。
市内の飲食店でも、扱ってくださるお店が増えてきました。ありがたいことです。
2016年12月には1名社員さんを迎えました。約27年ビール醸造に携わってきた醸造の専門家です。クラフトビール会社の多くは、ビール酵母をネット等で購入しているのですが、彼のおかげで当社では一から酵母培養をおこなうことができています。工場には20種類以上の酵母を常備しており、その組み合わせによってさまざまな味わいが可能。今は他社に販売できる酒母製造販売免許も取得して、7~8社に酵母の販売もしています。
2017年には量産体制を整えるため、現在の工場に移転拡大しました。
ここでビールを製造しています
はい、挑戦しました。おかげさまで目標額も達成でき、大変だけどやってよかったです。チラシを作って配り歩く中で、新たな出会いがあり、たくさんの方に支援していただき、本当にすばらしい経験になりました。地元の方を巻き込んで新しいビールを生み出すことができたのですから。
支援してくださったみなさんに、今からよいビールをつくって返していくところです。新しいつながりに感謝しています。
たくさんの方にご協力していただいて目標額達成!
何事も楽しくやりたいんです。ビールづくりも人間関係も。
ビールを通して県外にも行くこともあり、つながりも広がっています。ビールのおかげで金沢を知ってもらえる、こんなに嬉しいことはありません。
量産体制が整ってきたので、個人のお客さんもターゲットにしていきたいです。今、瓶販売の準備を進めているところで、今年が勝負の年。がんばります。
しょっちゅうですよ!(笑)
瓶販売はもっと早くしたかったのに、ずいぶん遅れてしまいました。品質のことでお客様に叱られることも多々ありました。クラウドファンディングのお礼の送付も予定より遅れています。たくさんのことに追われて、クレームをいただいて、それが一度に重なると正直へこみますね。
ただ、落ち込んでも落ち込んだままではいられません。反省だけしていても仕方ない。次のことを考えて動くのみです。
絶対結婚したいです!子どももほしいです!仕事だけの人生はいやです(笑)。
一方で、子育てと仕事を両立するのは難しそうだな、とも感じています。なので、会社を経営する者としては、いつか自分や女性社員が出産や育児で一時的に仕事から離れたときにも、ちゃんと業務が回る仕組みを整えておきたいです。
唯一の趣味がランニングで、平日の夜や週末早朝などと週2、3日は走るようにしています。気分転換にもなりますし、仲間に会えるのも楽しいし、レースに出るからにはタイムも縮めたいので。食べること飲むことが大好きなので、せめて何か運動しようという気持ちもあります。ビールをつくる者として、不健康なイメージを持たれたくないですから。体重は毎日測っています(笑)。
金沢城リレーマラソンに参加。仲間とたすきをつなぎました
今は女性でも活躍できる社会になりつつあります。とはいえ、表に出る女性はまだまだ少ないのが事実。だからこそ動いた時には目に留まりやすい。これは利点です。
実際に動いてみると支援してくれる人がいます。女性だからこその支援制度もあります。
少しでも何か新しいことを始めてみると、環境が変わるし、視野も広がります。動いてみると意外に何とかなるもの。自分の経験から、そう強く感じています。
5:00 | 朝食 朝は水と目覚めのコーヒー一杯。ビールづくりを始めて、朝早くから動くようになって、朝食はあまり食べないようになりました。 |
7:00 – 9:00 | 出社 一日のスケジュールを確認、来客、打ち合わせ等 準備 |
AM 業務 | 事務処理、ビールづくり、配達、イベント出店準備等 |
12:00 | 昼食 出資者の会社を含む社内の当番制のランチをしっかり食べる。2週間に一度、私にも当番が回ってくるのでその時は私がつくります(当番時は 11:00~買い物と昼食づくり)。 |
PM 業務 | 事務処理、ビールづくり、配達、イベント出店準備等 |
17:00-19:00 | 退社 |
19:30 | 夕食 |
20:00- | 平日週1-2日 ラン二ング。 読書、ニュース、パソコン業務の続き。退社後にも結局自宅でパソコンに向かっています。 週1-2日は取引先や知人のお店に飲みに行きます。仕事柄お店やイベントに興味があり、勉強のために回ることも多いです。 |
23:00 | 就寝 明日着るもの、持ち物、全て揃えてから寝ます。 |
18歳 | 高校を卒業してフリーターに。 |
20歳 | 金沢石油(株)に就職 |
24歳 | 金沢石油(株)を退職 |
25歳 | カナダへ。 |
27歳 | カナダより帰国。金沢駅観光案内所で勤務 |
28歳 | ビール工場創業の準備を始め、(株)金澤ブルワリー設立 |
31歳 | 現在 |
2018年5月取材
インタビュアー 長谷川由香(子育て向上委員会)