『女性も男性も取り残さない企業価値を高める意識・風土改革のヒント』開催報告

企業は継続や成長していく上で大小さまざまな課題に直面します。「多様な働き方の推進が進まない」「長時間労働が減らない」「女性管理職が増えない」「休みづらい雰囲気がある」など、多岐に渡る課題をどう解決するかによって、企業価値が変わっていきます。人口減少の時代となり、企業の価値を高めることが生き残りに直結する今、誰もが働きやすい環境にするためのヒントを、今回はオンデマンドセミナーを通して、講師の田中氏より教えてもらいました。

講師 田中 俊之 氏(大正大学心理社会学部准教授)
男性学を主な研究分野とし、多様な生き方を可能にする社会を提言する論客として、メディアでも活躍中。
内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員、厚生労働省イクメンプロジェクト推進委員会委員も務める。

主な著書:
『男子が10代のうちに考えておきたいこと」(岩波書店)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学―』(KADOKAWA)
配信期間 2022年3月1日~3月31日

今回のセミナーは、オンデマンドのオンラインにて開催されました。オンデマンドの利点として、配信期間中はいつでも視聴できることがあげられます。セミナー全体を通して非常に興味深い内容でしたので、自分にとってヒントになりそうな部分を何度も視聴した参加者もいるのではないでしょうか。

セミナーでは以下の2点が大きな方針として語られました。

  • 男性学の視点から考えること
  • 誰にとっても働きやすい職場を作ること

田中氏は「ダイバーシティやインクルージョンに関心を持てない男性は多い」と、男性の当事者意識の薄さを指摘します。「女性のためにやってあげているという目線ではなく、男性自身の課題である」という認識を持つことの重要性を語られてからセミナーがスタートしました。

“「男は仕事、女は家庭」から「男も女も、仕事も家庭も」へ”、というキャッチフレーズの盲点

聞き心地のよい「男は仕事、女は家庭」から「男も女も、仕事も家庭も」へ、というキャッチフレーズですが、ここには3つのアンコンシャスバイアス(無意識に持っている偏見)があると田中氏は指摘します。

  1. 50歳時点未婚率は年々上がっていて、近い将来3人に1人の男性は未婚となる。みんなが結婚していることを前提に考えてはいけない。
  2. 離婚でシングル親になる人の数が増えている。結婚したら夫婦がずっと連れ添っていることを前提にはできない。
  3. 男性同士、女性同士のカップルもいる。セクシャルマイノリティの存在を考慮する必要がある。

まずは私たちひとり一人が、自分の中の偏見を認識することが、現代社会を理解していく上で非常に大切なことだと感じます。

トップ層の意識が変わらない理由

日本のジェンダーギャップ指数は156カ国中120位と低迷していますが、その背景のひとつに、トップ層の意識が変わらないという点があります。田中氏はトップ層の男性の意識が変わらない理由として、彼らが仕事人生の中で積んできた経験について言及しました。

「1985~1989は寿退社や家事手伝いが多かった。4人に3人が、結婚、妊娠、出産で辞めている。この割合は平成に入ってもほとんど変わらない。現在のトップ層はこの時代の若者であり、同期の女性はほとんど辞めている。妻も専業主婦で、自身の経験上、女性は働き続けないものいう認識を持っている。」

田中氏によると、男女共同参画白書2014が策定された際、初めて「男性にとっての男女共同参画」という項目が登場したそうです。

そこで取り上げられた3つポイントは以下の通り。

  1. 従来の主力産業である建築、製造で就業者が減っている。
  2. 40代男性の所得が減っていて、女性が働かざるを得ないという状況になっている。
  3. 労働力率では世界最高水準で、男性は卒業から定年まで働き続ける状態になっている。

男が働けば家族全員ご飯を食べられるという理想がある一方で、現実では厳しいので、保育園の整備や企業の支援が欠かせない、とのことでした。

男性学とはなんだろう

男性学についても詳しい説明がありました。

「男性学とは、男性が男性であるがゆえに抱える悩みや葛藤を対象にした学問。1970年代にウーマンリブや女性学が誕生し、広く認知されるようになってきたが、男性には男性の抱えている問題もあるのではないかという疑問から、男性学が誕生した。」

男性学の視点から、男性が抱えている問題について、田中氏は以下のように指摘します。

「働きすぎは80年代からずっと議論されてきているが、中高年の働き過ぎはいまだに改まっていない。なぜなら働きすぎていることを問題と捉えていないから。」

「フルタイムで働いていても、女性の賃金は男性の7割に抑えられているので、夫側がたくさん働いた方が家計が潤う。女性を企業から排除した結果、男は仕事をコミットするしかなくなる。」

参考資料として、自殺死亡率のグラフがあげられました。数値を見て分かる通り、男性の自殺死亡率は常に女性の2倍以上で推移しています。田中氏は「中高年男性の特徴として、自分の悩みを人に相談できないというものがある。はばかられるのは男らしさの問題であり、もっと多くの男性に弱音をはいてほしい」と話しました。

また「平日昼間問題」という、平日の昼間に男性がうろうろしていると怪しいと思われてしまう現状にも警鐘を鳴らします。まともな男性であれば昼間は働いていて、定年まで働くことが当たり前だと思われることに、社会の側に偏見はないかと問いを投げかけました。

社会人という言葉について考えよう

田中氏は「社会人とは単なるOffice Workerであり、企業社会のメンバーであるだけなのに、なぜ特別視するのか」と問題提起します。

「男性は女性と違って働き続けられる特権を持っているが、一方でリスクはないのか。どう生きるべきかを考えないまま働けてしまうがゆえに、定年後に喪失感を抱える男性は多い。強制的に立ち止まって考える機会を男性は作るべき」と強調されました。

これからの働き方はどうあるべきか

1日8時間が最低限でそれ以上の残業が普通という慣習を改めて、1日8時間労働を当たり前にしなければいけない、と田中氏。そのために、現役のうちから職場、地域、家庭、個人の領域でそれぞれ居場所を作ろう、とのこと。地域(もしくは家庭)で浮く人の特徴として、「職場で通用していた肩書が地域でも通用すると思っている」と指摘します。「A電機店のポイントが貯まってるから、B電機店で使わせてよと言っているようなもの。会社で頑張ったんだから、ここでも威張らせろと言われても地域(家庭)のことをしていなかったら、地域(家庭)0ポイントで使えない。職場ポイントは職場で使ってほしいということ」と、分かりやすく例えを出してくれました。

また、女性社員が働きにくい職場が多いことについて、「女性社員への偏見が当たり前のように存在している」と言及します。米国大の調査によると、女子大学生が男子大学生の前で故意に自分の能力を低く見せているという統計が出ているとのこと。女性は男性を立てるのが当たり前という社会風潮は、無自覚のうちに女性の行動に大きな影響を与えているようです。

「社内において、一般職は仕事がうまくいくようにお膳立てしている仕事であり、大変さが見えにくい。女性が面倒くさいことを引き受けている現状に気づいてほしい。もし女性から異議申し立てが出てきたときには、改善のチャンスと受け止めてほしい」とのアドバイスがありました。

なぜ管理職に女性が増えないのか

管理職に女性が増えない理由を、田中氏は「予言の自己成就」と表現します。「女性には管理職などできないだろうと思われることで、その結果、部下から信頼を得ることが困難になり、ほらやっぱりできないという結論に至る」というのがこのロジックだそうです。

女性のロールモデルを紹介して女性を応援するのではなく、男性側が研修を受けなければいけない、との指摘には非常に強く共感しました。

企業価値を上げないと出て行けない人だけが残る

有能な上司とは、「マネジメント能力が高い人」と、田中氏は話します。「かつては、専業主婦がいる男性正社員が仕事にまい進していたが、今はいろんな人がいる。目の前に起きていることに対処できる管理能力が必要」とのこと。

「女性には雑用ばかりさせ、女性管理職は無理と言い、社内ではパワハラが起こる。このような組織では、より良い組織に移る方が楽なので、出ていける人が出て行ってしまう。出て行けない人だけが残る。」

確かに会社は人でできている以上、企業価値を高められるのは人以外ありえません。

最後に、積極的寛容と消極的寛容の違いについて話してくれました。積極的寛容とは自分と異なる価値観を持つ個人や集団への敬意や開放性のことで、お互いに変わり合い、尊敬し合えること。一方で、消極的寛容とは単なる無関心さを指します。

積極的寛容のある職場にするために、「面と向かって話すこと。お互いに敬意を払って、変わり合うこと。コミュニケーションを通して、企業価値を高められるようにしてほしい」と締めくくりました。

全体を通して非常に参考になる内容で、このセミナー動画を一人でも多くの管理職男性に観てほしい、そして何かを感じてほしい、危機感を持ってほしいと強く願う次第です。社会を形成するのも企業を形成するのも、私たちひとり一人の人間です。それぞれが新たな視点を持ち、刺激し合い、変化を促すことでよりよい金沢を作っていければと率直に感じています。

田中先生、素晴らしいオンラインセミナーをありがとうございました!

【取材・編集】子育て向上委員会 長谷川由香

質疑応答

Q. 金沢は保守的で性別役割意識が強い。年配の男性が多い上層部の意識を変えるにはどうしたらよいか?

A. ソニーの望月社長は、男、女、年下に限定せず、「新しい視点をありがとう」と喜んでこちらの話を聞いてくれる。自分にない視点を取り入れることの重要性に彼らに気づいてほしい。古い意識を持つことによるデメリットを意識してもらうことも必要。定年退職後は“きょうよう(今日用がある)”と“きょういく(今日行くところがある)”が大事と言われている。仕事中心で生きていくと、退職後“きょうよう”も“きょういく”もなく、苦しい。仕事人生はいつか終わるので、当人にそのデメリットを伝えてほしい。

Q. 男性の育休について企業の役員クラスの4人に1人が反対している。企業側のメリットは?

A. 男性の育休促進が企業に何のメリットがあるか、という視点がそもそもおかしい。女性は結婚妊娠出産で辞めてきた歴史があり、就業継続すら厳しかった。一方で、男性が取得したいとなると「変わりがいない」と言い出す。今まで女性が仕事を辞めてキャリア形成を犠牲にし、多くの企業はそれにタダで乗っかってきた。女性をタダで使っておきながら、「男性育休に何のメリットがあるのか」という問い自体がおかしい。あえてメリットをあげるならば、企業体質の古さの指標になる、ということ。目先の利益云々とは別に、誰にとっても働きやすい職場であるということが、良い人材の獲得につながる。

Q. 共働きの家庭も育児家事は妻に偏っている。そのうえで女性管理職を増やすのは理不尽ではないか?

A. 社会にも組織にも課題は山積しているが、自分たちの家族の方針は自分たちで打ち立てることができる。理不尽なことは多いが、夫婦で協力して何ができるか、うちの家庭はこうしようという指針を作るのは大事だと思う。

Q. 女性議員を増やす策として日本でクオータ制導入の現実味はあるか?

A. 今までも制度を作っても、抜け道を作って女性の活躍を阻んできた。性別で募集ができないから、一般職・総合職を作った。クオータ制も抜け道を作る可能性は高く、議論するレベルに達していない。女性が経済的自立、キャリア形成できる体制を整えて、初めてチャレンジできる土壌が整う。男女平等は社会の変化なので、今すぐは無理でも自分の子どもや孫が恩恵を受けられるような方向で進めていこう。