生理、妊娠・出産、不妊、更年期障害など、女性はホルモンに起因する健康課題を避けては通れません。慢性的な不調や疾患は、仕事を続けていく上で大きな障害となるケースもあります。働く女性が増加している中、企業はそれらの課題に対して、どのように支援を行っていくべきなのか、オンデマンドセミナーを通して学びました。
講師 | 永池 明日香 氏(株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部 コンサルタント) |
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配信期間 | 2022年12月6日~12月28日 |
まず、今なぜ女性の健康支援が注目され始めたのか、大きな理由としては、働く女性が増えてきたこと。
少し前までは結婚や子育てで仕事を辞めて家庭に入る女性がたくさんいましたが、
近年は、継続して働く女性の数が増えています。
そんな中、仕事と月経に関するデータが公表されました。
生理の体調不良による労働損失は年5000億円規模という驚きの数字。
従来の日本の福利厚生は生活習慣病予防が中心で、中高年の男性視点でした。
しかし、多様な人材が求められている今、女性が働きやすい環境の整備を無視することはできません。
実際に、女性従業員の約5割が健康課題で困った経験があり、
そのうちの多くが月経関連で女性従業員の約4割が、管理職昇進などを諦めたことがあるという調査結果もあるそうです。
永池氏は、女性はエストロゲンとプロゲステロンという2種類のホルモンによって、
心身に大きな影響を受けること、年代によって発症しやすいトラブルが変化することなど、
女性のライフステージにおける健康課題について詳しく解説してくれました。
問題になるのが個人差です。
月経の重さは人それぞれで、仕事に支障が出る人、普段通り過ごせる人、一人ひとり異なります。
女性同士でもあまり話す機会もなく、簡単に人と比較できるものでもありません。自分の月経の状態を「普通」ととらえてしまい、我慢をしたり、他者に我慢を強いたりすることがないよう、十分気を付ける必要があります。
永池氏によると、昔の女性は出産回数が多かったため、生涯の月経回数は50~100回だったとのこと。
それに対し、現代の女性は450回もの月経を経験するそうです。
ちなみに生理休暇は労働基準法で定められた休暇にも関わらず、令和2年度に利用した人は0.9%。
上司に言えず、痛みや不調を我慢している人が多くいるのかもしれません。
妊娠から出産までの体の変化についても説明がありました。「妊娠中の従業員への対応をしっかり行うこと。残業や深夜労働の免除、長時間の立ちっぱなし、重いものを持つのを避けるなど。妊娠中の体調も個人差が大きいので、どういうケアが必要か言い出しやすい雰囲気づくりを」と永池氏。
さらに産後については、ホルモンバランスが崩れて体調不良に陥りやすいことや産後うつの危険性などを示し、出産した妻を持つ従業員には育休を促してほしいと話しました。
永池氏が提示したデータによると、不妊かもしれないと悩んだ経験がある夫婦は3組に1組、不妊治療を受けたことがある夫婦は4.4組に1組。
それにも関わらず、厚生労働省の調査では77%の人が「不妊治療の実態を知らない」と回答しました。
男性に不妊原因がある場合もある事実もそれほど知られていないようです。
不妊には、身体的負担、経済的負担、精神的負担、時間的負担という4つの負担がある、と永池氏は指摘します。
また不妊治療をしても必ず妊娠出産に至るとは限らず、孤独になりがちで誰にも相談できないという側面もあります。
仕事の不妊治療の両立は、NPO法人 Fineのアンケートでは95%程度が「難しい」と回答しており、「30代~40代の女性が辞めてしまうのは企業にとって大きな損失」です。
更年期は、45~55歳くらいに現れるさまざまな不調を指しますが、永池氏によると内閣府の調査より40代の約4割、50代の5割以上が更年期症状を抱えているとのこと。症状は個人によってさまざまで、のぼせや腹痛、頭痛、不眠、いらいら、動悸などがあげられ、キャリアに影響を与えることも少なくないそうです。
女性本人はもちろん、管理職や周囲の従業員も女性の健康課題について正しく理解しておくこと。
社内報などでの情報発信、社内研修
女性が気軽に相談できる場所を。
相談医、カウンセラー、オンライン相談など。
不調時の休養、柔軟な働き方(フレックスやテレワーク等)、利用しやすい制度・風土づくり。
職場全体の働き方改革。
参考として、大手企業の女性健康支援の具体例を挙げ、各企業ができるところからやっていきましょうとセミナーを締めくくりました。
今後、働く女性がさらに増えていく中、決して後回しにできない課題だと強く感じます。永池先生、参考になるオンラインセミナーをありがとうございました。
【取材・編集】子育て向上委員会 長谷川由香
A. 確かにフェムテックの導入は大企業が多いが、目的は女性の健康課題を支援することなので、中小企業でもできることはあるはず。使いやすい制度や情報発信、風土づくりも大事な支援である。特別休暇の事由に不妊治療を入れたり、自治体の健康相談を案内したり、体調不良時に休めるスペースを用意するなど、できることから始めてほしい。
A.女性の健康課題について正しく知ってもらうこと、周知していくことが大事。制度をパッケージ化して、女性だけでなく多くの人が使えるようにするのもひとつの方法。更年期障害は男女ともに使えるようにしてもよいと思う。また、サポートする側の不公平感を減らすため、サポートした人にインセンティブや評価を与えるのもひとつの方法。今はサポートする側でも、いずれサポ―トされる側に回ることもあるので、お互い様の意識を持ってもらうよう進めては。
A. 今は家事、育児、介護も、男性と女性が一緒に進めていく時代。上の世代は男女の性別役割分担意識が強い人が多いが、若い世代は変わってきている。会社として働き方改革が行われているかどうかは、今後選ばれる会社になるためにもアドバンテージになるので、ライフステージに応じた働き方を考えることが重要となってくるだろう。